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大阪地方裁判所 昭和45年(わ)2671号 判決

本店所在地

大阪市北区豊島町四番地

商号

新日本不動産株式会社

代表者氏名

小原四郎

右の者に対する法人税違反被告事件につき当裁判所は検察官大谷晴次出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を罰金五〇〇万円に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人新日本不動産株式会社は、大阪市北区豊島町四番地に本店を置き、不動産経営等を目的とする資本金二、〇〇〇万円の株式会社であり、小原孝二(昭和四六年七月三日死亡)は、右被告人会社の代表取締役社長として同会社の業務全般を統轄していたものであるが、右小原孝二は被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、同会社所有株式の売却により売却益があったのに右売却益を計上せず、売却代金を仮受金として処理する等の不正な方法により所得を秘匿し、昭和四二年五月一日より昭和四三年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が六、五三三万九、六一七円であったのにかかわらず、昭和四三年七月一日同市北区北駒町五六番地所在の所轄淀川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、四三〇万九、〇九〇円の赤字で納付すべき法人税額は零である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もって被告人会社の右事業年度の法人税額二、二八八万四、八六五円を免れたものである。

(証拠の標目)

一、小原孝二の検察官に対する供述調書四通

一、増山成夫の検察官に対する供述調書二通

一、小倉三郎、住谷修(二通)、広瀬時男、萬屋健次郎、渡辺英吉の検察官に対する各供述調書

一、第三回公判調書中の証人増山成夫の供述記載部分

一、証人増山成夫、三木一郎、狭間栄祐の当公判廷における各供述

一、住友房子の検察官に対する供述調書二通

一、大阪法務局登記官奥村栄一作成の昭和四三年六月四日付登記簿謄本三通

一、検察事務官岡本弘作成の捜査報告書

一、淀川税務署長田村耕平作成の青色申告書提出承認の取消決議書

一、国税不服審判所長作成の裁決書謄本

一、被告人会社代表者小原四郎の当公判廷における供述

一、押収にかかる申告書綴一部、有価証券売買約定書(昭和四三年二月二三日付)一通、広告契約書二通、小切手(金額一千万円)一通、同(金額一億四千万円)一通、同(金額二千万円)二通、領収書(金額一億五千万円の分)一通、同(金額二千万円の分)二通、一般禀議書一通、契約書一通、領収書(金額三四〇万円の分)一通、伝票綴五部(当裁判所昭和四八年押第八二四号符号一ないし一九)

(弁護人の主張に対する判断)

第一、本件の争点である被告人会社が日本レーヨン株式会社に売り渡した近江絹糸株式会社の二〇〇万株の売買単価に関し、弁護人に関し、弁護人は、「昭和四三年二月二三日右株式二〇〇万株を単価七五円で売り渡す契約をして所有権留保のまま、一億五、〇〇〇万円を仮受金として受取り翌期に計上するものとしていた。従って単価九五円で売り渡したものではなく、その差額である一株について二〇円の金額は右株式の売却代金ではなく、日本レーヨン株式会社のラジオ日本新聞社、新日本新聞社に対する広告代金である。と主張する。しかしながら前掲小原孝二、増山成夫の検察官に対する各供述調書、同証人増山成夫の当公判廷における供述ならびに供述記載、同三木一郎の当公判廷における供述及び前掲押収にかかる証拠書類(前掲符号二ないし一二)を総合すると、本件株式二〇〇万株の売買価格については売買当事者間で利害が相対立し、当初被告人会社の当時の代表者であった小原孝二は単価一〇〇円以上の線を主張し、日本レーヨン側は七五円以下を主張し、その後右小原社長と日本レーヨン副社長増山成夫、日本レーヨン財務部長三木一郎との間で交渉が続けられ、日本レーヨン側は七五円プラス一五円として九〇円の線まで譲歩したが、結局昭和四三年二月二〇日ごろ、最終的に両者の中をとって九五円と決定したこと、次いでこの決定に基づき同月二三日一株単価九五円合計代金一億九、〇〇〇万円で売却し、同日右株式の引渡しを完了すると共に、同日日本レーヨン株式会社振出名義の小切手で右売却代金を受領し、ここに本件株式売買が完結したことが明らかに認められる。なるほど当事者間には弁護人の主張に副うが如き、一株七五円でその代金合計は一億五、〇〇〇万円、一株についての差額二〇円合計四、〇〇〇万円については新日本新聞とラジオテレビニッポンに対する広告宣伝費とする旨の契約書が作成されているが、これは右小原社長が右株式売買の実体を有りの儘被告人会社のものとして経理処理すれば多額の法人税を納付しなければならず、支払手形の決済も不可能となるため、右増山副社長に対し一株七五万円代金合計一億五、〇〇〇万円で売買したことにして貰いたい、差額二〇円分合計四、〇〇〇万円については新日本新聞とラジオテレビニッポンに対する広告宣伝費ということで出して貰いたい旨依頼し、日本レーヨン側も株主総会対策上(ちなみに日本レーヨンは昭和四二年二月一日紀井産業株式会社から近江絹糸株式会社の株四〇〇万株を一株七二円で買取っている)右依頼に応じて処理した方が得策であると判断した結果、内容虚偽の右契約書を作成したものと認めるのが相当である。しかも本件以前の広告料即ち従来日本レーヨンはラジオテレビニッポン一紙に対し月額僅か三万ないし五万円の広告料しか支払っておらず、新日本新聞に対しては広告を掲載していなかったし、右広告料もその都度後払いであって前払いということはなかったのであり、本件広告料としての四、〇〇〇万円は全く異常のものというべく、この点から以ってしてもこれは広告料名目に仮装したものであって、実質は売買益と断ぜられるし、更にラジオ日本新聞社及び新日本新聞社は、日本レーヨンから受領した各二、〇〇〇万円はその直後の昭和四三年二月二九日被告人会社に対する新築ビル協力金として仮払い処理をしており、このことからも、右四、〇〇〇万円は実質は株式売買益であって、広告料の名目に仮装処理したものであることが明らかに認められる。

第二、次に本件株式売買による利益の計上を昭和四三年四月期にしなかったことは違法ではないとの弁護人の主張について考えるに、右に判断したとおり本件株式の売却月日が昭和四三年二月二三日であり、売却価格は単価九五円、代金合計一億九、〇〇〇万円ということがこの時点で確定しており、旦つ株式二〇〇万株の引渡しも同日売買が完結しているものと認められ、従って昭和四三年四月期にこの売買益を計上しなければならないことは、経理処理上当然のことである。しかるに前記小原社長は同期に右売買益を計上すれば、法人税を納付しなければならないところから、右税を免れるため一株につき一円ないし二円の僅かな配当金が出されることを幸いに、売買が完結していないものとし、右売買益を翌期に繰り延べ、仮受金として受入れた旨経理処理をなし、同時に日本レーヨン側もそれに見合うように仮払いの形で経理処理したものであって、もとより違法なものといわざるを得ない。

第三、青色申告承認の取消処分の取消について、弁護人の立証によれば、大淀税務署は昭和四九年一一月一四日付で右取消処分を取り消したことは明らかである。又大阪国税不服審判所が同年一二月二五日、昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度分の原更正処分及び重加算税の原賦課決定処分の全部を取り消したことも明らかであるが、その理由は原処分庁が二〇期分以後の法人税の青色申告の承認の取消処分を取消したことにより、二〇期分法人税の更正処分は青色申告に対する更正として取り扱うべきであり、従って更正通知書には法人税法一三〇条二項に規定する更正の理由が附記されねばならないのに、本件更正通知書にはその理由附記を欠くので違法な処分となるから取消を免れず、又重加算税の原賦課決定処分については原更正処分の取消にともないその全部を取消すというのであって、以上の取消し処分はいわば手続上の過誤によるものであって、被告人会社のなした本件二〇期分の確定申告の内容がすべて審査されたうえこれが是認されたわけではない。しかしながら青色申告の承認取消処分が再び行われないものであることは、被告人会社代表者小原四郎の当公判廷における供述によって明らかであるから、本件逋脱所得の内容中、繰越欠損金七六八万二、四五八円は損金不算入とすべきではなく、青色申告承認により繰越を認められるべく、これは本件所得金額から控除されるべきである。従って本件被告人会社の所得金額は六、五三三万九、六一七円となり、その逋脱税額は二、二八八万四、八六五円となる。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、法人税法一五九条一項、七四条一項二号、一六四条一項に該当するのでその所定罰金額の範囲内で、被告人を罰金五〇〇万円に処し、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して被告人の負担とする。

よって主文のとおり判決する。

昭和五一年二月二〇日

(裁判官 橋本達彦)

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